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オタクです

映画を見るようになりました

斜線堂有紀先生のキネマ探偵カレイドミステリーを読んで映画を見るようになった。
これまで私の人生に映画という媒体はほぼ存在していなかったと言っても過言ではなく、見ることはあってもアニメ映画一択、それ以外といえば幼い頃恐竜好きが高じて見ていたジュラシックパークシリーズや、いくつかのホラー映画を見たことがある程度。
母が映画オタクだったために勧められることはあり、勧められなくとも家で何かしら映画が流れていることはよくあって、その度に吹き替えの声優に反応していたりはしたのだが、興味を持って視聴するといったことは一切なかった。
というのも、恐らく映画という媒体以上に、三次元の人間に興味を持てなかったからというのが大きいように思う。
幼い頃からアニメや漫画といった二次元媒体の趣味に傾倒しており、逆にドラマや映画という媒体には一切の興味が持てなかった。
それは二次元的な表現が好きだから、という理由ももちろんあったが、現実/それに伴う三次元の人間というものを好きになれない/興味を持てないが故に、人間の顔と名前が全く覚えられない/誰も彼も似たり寄ったりの顔にしか見えないために物語に入り込めないという理由が大きかったのかもしれない。今思えばではあるのだが。
そうして28年、どれくらい映画を見たことがなかったかというとバックトゥザフューチャーを人生で見たことがないまま過ごしていたのだが、なんとそんな自分が進んで映画を見るようになった。
そのきっかけとなったのが、MW文庫から出版されているキネマ探偵カレイドミステリーシリーズだ。
作者の斜線堂有紀先生の作品は以前から拝読しており、その中でも「私が大好きな小説家を殺すまで」は聖典として扱っているほど好きな作品なのだが、デビュー作であるキネマ探偵カレイドミステリーを読んだのはつい最近、緊急事態宣言が出ることで引きこもりの才能を発揮できた二ヶ月間のことである。
キネマ探偵カレイドミステリーは映画を題材にした連作短編ミステリーだ。
映画と言えばドラえもんくらいしか見たことのない大学生・奈緒崎と、ひきこもりの映画オタク・嗄井戸が、映画のストーリーをなぞっていたり、一枚の映画の円盤をめぐったものだったりと、とにかくどこかしらに映画が関わっている事件をその映画の知識から解決していくという内容。
そのため映画を知らない自分のような読者は奈緒崎と一緒になって嗄井戸の深い映画知識に感嘆しながら、彼の語る作品の面白さ、それだけではなく、映画という媒体自体の面白さに耳を傾けることになり、映画に詳しい人間ならきっと嗄井戸と一緒になってかつて見た映画に思いを馳せ、その事件の解決へと思考を巡らすことができるはずだ。
現実にあるタイトルがいくつも作中に登場し、それは自分ですら聞いたことのある有名作もあれば、あの作品のこの吹き替えのバージョンといったわかる人にはわかるような細かい指定が含まれるものだったりもした。
しかしそのどれもに対し、ホームズ役の嗄井戸はとても面白そうにその作品を語るのだ。そして、映画という映像媒体がどれだけ魅力的で、その時代の技術を駆使して作られているものなのか、そこに込められた、フィクションの力がどれほどのものなのか。それらを本当に愛しそうに綴ってくれていた。
それだけでも映画への興味は出てきていたのだが、シリーズのラストシーンで二人が見始めた映画がどうしても見たくなり、本を閉じた瞬間からその映画が配信されている配信サービスを探し、なんとか登録を終え、二人と一緒に画面の前にいるように再生ボタンを押していた。

それからも作中に出てきた作品を見てみたり、知人に勧められるままにタイトルを調べたり、金曜ロードショーを録画してみたり、苦手意識のあった映画館に足を運んだり、まるでキネマ探偵カレイドミステリー第一話で登場したようなもうすぐ休館になってしまうというミニシアターに行ってみたりと(しかも上映していたのが正しく第一話で取り上げられていたニューシネマパラダイスだったのは本当に胸が詰まった)様々な方法で映画に触れている。
まだ映画の面白さ、自分がどんな映画が好きなのか、わかったようなわからないような、小説やアニメを摂取するときとは別の筋肉を使っているような感覚があり難しく思うことも非常に多いのだが、ひとつ言えるのは間違いなくかつて映画に興味を持てなかった頃より映画に興味を持てるようになったぶん楽しめるものやことが増えたこと。そしてキネマ探偵カレイドミステリーの、彼らの生活がふと垣間見えるような気になれること。今あの作品を読んだら、きっともっと別の楽しみかたも増えていること。
この映画を、もう彼らは見ただろうか? この映画を見たら、彼らはどんな感想を言うだろうか? そんな風に、友だちとの感想会を楽しみにするように、想像してわくわくしてしまえること。

この数年、WUG!という作品/声優ユニットを通じて現実に肉体が存在する声優やアイドルという生身の人間を好きになり、興味を持つことができたこともあり、昔よりはある程度三次元の顔の判別もつくようになったのも、今こうして映画を見れるようになった理由のひとつだと思っているのだが、少なくともキネマ探偵カレイドミステリーという作品がなければ「映画を見たい」と思うことはなかったはずである。
映画を見るようになった、という人に言ったら些細な出来事だと言われる/思われることかもしれないが、一切興味を抱けなかった媒体に興味を持って進んで自分から触れるようになったことは、自分にとっては少なからず価値観が変わる出来事だった。
たった一作に人生を変えられたといっても間違いではないだろう。こういうことがあるから作品は面白い。
今日も初めてグランドシネマサンシャインに行ってきたのだが、エスカレーターの横にずらりと飾られた映画のポスターには感動してしまった。額縁に綺麗に入れられ、ポスターの下には美術館のようにそのタイトルと監督の名前が綴られていて、この絵画のように並べられたポスターを、彼ら二人に見せたいなあ、ここに来てほしいなあと自然と考えていた。

映画って、小説って、フィクションって、それによって拡張されていく自分の現実って、本当に面白いです。斜線堂有紀先生に感謝。


ちなみに見た映画はこんな感じで手帳にタイトルと感想をメモしています。漢字と日本語滅茶苦茶だけど。映画鑑賞まだまだ続けるぞ!
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